アニマルフリーの革素材 アップルレザーとは?

メディアで毎日のように目に耳にしたSDGsという言葉が、ひところに比べるとすっかり聞かれなくなりました。17のゴールをあらわすSDGsのアイコンが世界中を駆け巡ったのもつかのま、新型コロナやウクライナ問題で、環境のことはすっかり忘れ去られてしまった今日この頃。電力確保のために、火力発電や原発が再稼働するなど、世の中は一気に逆戻りしてしまいました。そんな中、私たち女性と親和性のあるアパレル業界で、意外なSDGsへの取り組みが行われていることがわかりました。

「つくる責任、つかう責任」

SDGsのゴールの中でも、私たちと密接な関係にあるのが、12の「つくる責任、つかう責任」ではないでしょうか。製造業では環境に配慮した素材を選び、環境汚染を回避した製造方法が推奨されています。また、私たち使う側は、使った後のリユースやリサイクル、環境に影響を与えない処分方法などの責任が求められています。今、アパレル業界で改革が急がれているのは、まさにこの「つくる責任」です。アパレル製品の製造過程では、糸や皮を洗ったり鞣したりするのに、水質汚染につながる化学薬品が含まれた水を大量に必要とします。これを改良するには、根本的な素材選びから変えていく必要があるのです。

リンゴの食品ロスから生まれたヴィーガンレザー

大量のリンゴが食品ロス

ヴィーガンレザーとは動物由来でない合成皮革(フェイクレザー)の総称で、ナイロンやポリエステルを使ったものと植物由来の2タイプに分けられます。どちらも動物の皮革を鞣すときのような大量の有害化学物質を含んだ水は必要としませんが、合皮の製造には人体や環境によくない溶剤系ポリウレタン樹脂が使われています。

そんな中で、目をつけられたのがジュースなどのために汁や実を搾取された後に残るリンゴの皮や芯でした。生産者や工場の悩みの種であった大量の食品ロスを有効活用できないだろうか。そこで考えられたのが、その芯や皮を粉砕したものから作るアップルレザーだったのです。有機溶剤を含まない水溶性ポリウレタン樹脂を使って製造するので環境汚染にならず、食品ロスにも貢献する素材として、一気に注目されるようになったのです。

柔らかく、撥水性のあるテクスチャー

アップルレザーのトートバッグ 軽くて撥水性があるので使いやすい

現在、つくられているアップルレザーは、30%程度のリンゴ由来の成分を含む合成皮革です。リンゴ由来のバイオ成分が入っているので樹脂の使用がかなり少なくて済み、人体や環境に優しいのが特長です。

動物の革に似た柔らかいテクスチャーで軽く使いやすく、さらに撥水性があるので水に濡れて変色したりする心配がありません。合皮として扱われますが、一般的な合皮とは違い加水分解が起きづらいので、経年劣化でボロボロになることもありません。

環境に優しく、素材的な観点から見ても優秀なアップルレザーは、今後技術の発達に伴って、さらに汎用性のあるヴィーガンレザーになっていくのではないでしょうか。

エシカルなアイテムこそ、これからの本当のラグジュアリー

爬虫類には、まだまだanimal welfare がいきわたっていない

最近、animal welfare(動物福祉)という言葉をよく聞きますが、これにいち早く反応したのが、海外の高級ブランドたち。シャネルは早くから、ワニ、ヘビ、トカゲなどの、いわゆるエキゾチックアニマルと呼ばれる動物の革を製品に使わないことを宣言。また、エルメスやステラ・マッカートニーはきのこを原料にしたヴィーガンレザーを、プラダやグッチ、バーバリーは再生ナイロンを使ったりと、それぞれの企業が動物への配慮を反映させた取り組みを行っています。

このように動物の皮を使わない、サステナブルかつエシカルなモノづくりを高級ブランドが率先して手掛けることで、世界中のファッションブランドが意識を高め、ヴィーガンレザーを取り入れ始めたのです。ファッション誌でもヴィーガンレザーBAGの特集も企画していたりと、ちょっと環境問題を流行で見ているようなところもありますが、それに多くの人が共感して、世界中で動物皮革を使わないことが当たり前になっていけば、最新おしゃれを楽しむこともSDGsの運動ひとつ、と言えるのかもしれません。

動物由来の革は無くなっていくのか?

食用の牛、豚の皮が、革製品になる

では、現在使っている牛や豚などの革は、animal welfareの精神に外れているのかというと、それはNON!これらは、食肉のために出た動物の皮を使っているので、逆にエコになるのです。食用以外で牛や豚を殺すことは法律で禁じられているため、食用の他、病死や寿命などで死んだ動物の皮も使われています。このことからわかるように、動物の皮を使うことがanimal welfareに即していないと、一概には言えないということも、正しくサステナブルを理解するためには知っておく必要がありそうです。

また、前述のエキゾチックアニマル(希少な動物)の皮は、ワシントン条約で過度な取引を禁じられているため、いちおう過剰な殺生はないと考えられています。数が限られているのと、加工に特別な技術が必要なこともあり、この手の革製品が高級品になっていることは間違いありません。

アップルレザーが担う、これからの革シーン

消費者には「つかう責任」が

食品ロス、環境汚染、animal welfareと大きく3つの問題を担っているアップルレザーは、今後、動物皮革に代わる存在として大きくクローズアップされていきそうです。すでに、大手アパレルメーカーはじめ、多くの企業が導入を検討しているようで、数年先は革といえばアップルレザーのことを指すようになっているかもしれません。

加工の仕方ひとつで、天然の動物皮革の重厚な風合いにもなれば、軽くて使い勝手のいいカジュアルな素材にもなるアップルレザーは、果たしてサステナブルやエシカルに対応できるイノベーションを生み出す素材になっていくのでしょうか。

「つかう責任」を担う私たち消費者としては、地球環境に配慮した選択で、アップルレザーを含むヴィーガンレザーの可能性をサポートしていきたいですね。