白い器 それぞれの風合い
料理やテーブルコーディネートに特別こだわりがあるわけではないが、器は好き、という人は案外多いのではないだろうか。自信のない料理の味を何倍増にもしてくれるし、量にもの足りなさを感じるときは、スケールの大きな器であえて少なめを強調、などという現実的な付き合い方はもとより、アートな和菓子にはこの手触りの器、季節感のあるお新香はこの色の器に、というように、自分の個性や感覚を表現する身近な手段として、私たちは器に親しんでいるのだと思う。
そんな中でも、もっとも多くの人に選ばれ、親しまれているのが、「白い器(白磁)」ではないだろうか。なにより料理を引き立ててくれる。そして、おいしそうに見せてくれる。多くのレストランや料理店で白い食器を用いているのは、そのなによりの証明ではないだろうか。
ところが、一口に「白い器」と言っても、よくよく見てみると、どれも一様でないことがわかる。洋食器の白は、あくまでも白く、ピュアな硬質感に光り輝く。ひとつひとつはシンプルな地模様が入っているだけで主張しないが、セットで並べたり、個性的な器と一緒に使うと、その上品さでがぜんクラス感を漂わせる。
洋食器の白とは、少し、というか、まったく違うのが、和食器の白である。和食器でいう白磁とは、白い粘土で作り、透明の釉薬をかけて焼いた磁器のこと。一方、白磁と同じ素地を使いながら青みの残る釉薬を使ったものを青白磁と呼ぶ。
いまさらだが、磁器と陶器の違いはご存じだろうか。簡単にいえば、原料の違いで、陶器は粘土(土)、磁器は陶石と呼ばれる岩石から作られている。が、磁器の場合は、原料となる岩石の細かさでその風合いは様々に変化していく。同じ白磁でも、岩石の粒が細かければ洋食器に似た硬質な白い器になり、粒が大きければ陶器のようなざっくりとした肌触りの白磁ができあがる。
あたたかみのある白 和のこころ
表参道と外苑前の間、青山通りから一本裏道に入ったところにある和食器専門店「うつわ大福」で、来月4日まで開催しているのが、「九谷青窯 白磁50選」だ。サブタイトルが「あたたかみのある白」となっていて、和食器のほっこり感漂う白磁のコレクションを展示している。
50種もの白い器を一堂に見る機会はあまりないが、見比べてみると、ひとつひとつの微妙な素地や釉薬の違いがわかる。どの器も“あたたかみ”を追求しているので、純白の白ではない。生成りのような、青みがかったような、それぞれが固有のニュアンスを表現している。白であることを第一にしているので、絵付けはなし。白の色あいと形、地模様で勝負しているようである。
見ていると、あ、これにはナスの煮びたしだな、とか、カボチャの煮つけが似合いそう、などと、盛る料理の絵柄が自然と浮んでくる。こちらが日本人だからか、器がそう連想させるのか、頭に浮かんでくるメニューはどれも和総菜だ。ベーシックな白の大皿ならテリーヌや肉のコンフィなどの洋メニューも合わなくはなさそうだが、テーブルは和テイストになりそうだ。それだけ、器の選び方で全体の印象が変わるということだろう。言い換えれば、器は料理を支配するということかも知れない。
秋深し、白磁にポツンと栗甘煮
使ってみるとわかるが、真っ白でない白磁は、とにかく使いやすい。洋食器のような華やかな光沢がないので、見た目地味な和惣菜を実においしそうに引き立ててくれる。おばんざい風に大盛にするのもよし、姿よく煮込んだ栗の甘露煮をポツンとひとつだけお茶うけに出すのもよし。器の使い方には食文化に対する感性があらわれるものだが、どんな料理との取り合わせでも、なんとなくセンスよく見せてくれるのが、ほっこり系白磁だと思う。
実は、展示中の作品の中にお気に入りを発見。直径22センチの平皿で、明度の低い白色に幾筋もの線が中央から放射状に入っている。大皿としても使えるし、銘々皿としても使えそうなので、複数購入したが、その使い勝手の良さは想像以上。なんということもない鶏肉とキャベツの千切りを盛っただけでも、いっぱしの和食店で出されたよう。また、ある日は、庶民の味サンマに大根おろし、カボスを添えてみれば、これまた腕のいいプロの盛り付けに。まさにヘビーローテーションの活躍ぶりである。
主役であることを主張しないが、いつのまにか場を制している、白磁とはそんな役者のようなもの。お互いを尊重し合う協定もできているようで、同じ舞台に立っても、決してバッティングはしない。ヒロインが登場すれば、精一杯盛り上げる。なんと健気で賢いものなのだろう、と思わないではいられないのである。
「うつわ大福」
〒107-0062 東京都港区南青山3-8-5 TEL03-6314-0236
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